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最高裁判所第三小法廷 昭和34年(オ)392号 判決 1961年12月12日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人弁護士村田利雄、同菅野虎雄の上告理由第一点について。

換地予定地ないし仮換地の指定は、土地区画整理事業の一環として行われるものであるから、その指定にあたつてなさるべき従前の宅地との照応考慮は、原則として土地区画整理事業開始の時における状況を基準とすべきであつて、土地区画整理事業開始後における状況の変化は、それが土地区画整理事業の実施に伴うものである以上斟酌すべきではない、と解するのを相当とする。

原審(その引用する第一審判決)の確定した事実によれば、所論(ハ)の土地は、防空法に基く強制疎開跡地として一時福岡市に賃貸されていたが、「福岡市復興都市計画土地区画整理事業」が福岡県知事により認可され本件土地区画整理事業が開始された昭和二二年一〇月二九日当時には、右賃貸借は解除され、空地のまま当時の所有者許斐儀一郎に返還されていたのであり、右土地につき道路供用開始の告示がなされたのは昭和三一年五月一八日であり、しかも、同土地の道路敷への編入は本件土地区画整理事業の一施策としてなされたものである、というのである。されば、被上告人市長が昭和三一年一一月一二日上告人らに対し本件仮換地の指定をなすにあたり、所論(ハ)の土地がすでに道路になつている事実を度外視し、右土地が本件区画整理事業開始当時許斐儀一郎の所有に属していたものとしてさきに同人に対し換地予定地の指定がなされたという事実その他原判示諸般の状況を基準として、右の照応考慮をなしたことは何等違法でなく、いわんやこの点の判断に重大かつ明白な瑕疵があるとは、到底認められない。それ故、叙上と同趣旨に出た原判決の判断は、結局、正当であつて是認すべく、論旨は、これと異なる見解に立脚して原判決の違法をいうに帰し、採るを得ない。

上告代理人弁護士村田利雄の上告理由第二点及び第三点について。

原判決の引用する第一審判決は、昭和二〇年末限り所論(ハ)の土地に対する事実上の支配が許斐儀一郎に返還された旨を認定したものではなく、法的負担のない完全な所有権が返還された旨を認定したものであることは、判文上明らかであり、その認定の過程に所論の違法あるを見出し得ない。また、かように本件土地区画整理事業開始当時所論(ハ)の土地がすでに法的に完全な所有権といい得る状態にあつた以上、これを基礎としてさきに同人に対してなされた換地予定地の指定が違法でないことは、前記上告理由第一点について説示したところにより明らかであつて、この点につき原判決に法令違背の違法ありとはいい得ない。所論は、要するに、原判決を正解しないでその違法を攻撃するか、論旨第一点を繰り返えし主張したに過ぎず、すべて採用できない。

上告代理人弁護士菅野虎雄の上告理由第二点について。

原審(その引用する第一審判決)の確定した事実関係の下においては、本件仮換地の指定によつて上告人らに指定された各土地の範囲がその通知書で特定されていると認定することは可能であり、論旨は、ひつきよう原審が適法になした右事実の認定を争うものであつて、採用の限りでない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 五鬼上堅磐 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 高橋潔 裁判官 石坂修一)

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